「パリよ、永遠に」外交とは


先日観た映画の話。「パリよ、永遠に」を観てきましたよー。
本当は「イミテーションゲーム」を観たかったのだけど、封切り直後だったせいかアカデミー効果か、映画館満席御礼でありまして…。この日は早めに帰らなくてはならないこともあり、急遽変更。よって、予備知識無しに飛び込みました。


舞台は第二次大戦末期のパリ。この頃のパリは、ドイツの占領状態にあります。市内のホテルに駐在しているドイツ人将校コルティッツは、あるときパリ壊滅作戦を命じられます。それは地下に大量の爆薬を仕込んで、パリ市内のあらゆる歴史建造物を大破させ、首都を壊滅させるという作戦。それを知ったパリで生まれ育ったスウェーデン総領事ノルドリンクが計画を阻止すべく秘密裏に説得を行う

という話。なんせ予備知識無しに観たもんだから、戦争ものらしい〜としか知らなかった私の無知さ加減。
この頃のドイツ軍は、ノルマンディ等々あちこちで大敗を重ねていて、戦況は非常に悪い。じわりじわりと連合軍も攻め込んできている状態です。こんな中、占領状態にあるパリを爆破したところで、軍事的には大きな得はない。レジスタンスの活動を抑えること、一時的な連合軍の足止めになる程度で、結局のところ数百万の市民を巻き添えにした責をドイツは負う事になる。なんてことをノルドリンクが説得し、一方で、しかし、ベルリンをはじめとした他の都市も壊滅状態にあるし、パリだけを守ろうと言うのは詭弁ではないのか。自分は将校であるし、命令に背く事はできない。長年の戦争経験で戦争というものを知り尽くしているし、訪れたばかりのパリ、しかも良くも知らない敵国を、国の命令に背いてまで守る義理は無い、とコルティッツが反論する。そんな風に交渉が続くのですが、このふたりの密室での会話がほぼ全てなのだよ…!
戦時中の話でありながら、戦闘シーンはほとんど無し。ひたすら、年を取ったふたりがホテルの一室で話し合いを続ける。しかし、これがまた面白い。

原題は「Diplomatie」仏語で「外交」ですね。外交による交渉、それがこの映画のメインです。
ふたりの会話がずっと緊迫していて、お互いに一歩も譲れぬ状態からどのように気持ちが変わって行くか、相手の気持ちに時に寄り添い、時に揺さぶり、時に脅しのようなことも言いつつ、決して冷静さを失わない、本質から逸れない。テクニックも根気もすごい。あくまで映画(原作は史実を元にした舞台)なので、本当にこんなやりとりだったのかは別として、外交ってものすごく高度なテクニックなのだなーと。これで決裂したり上手くいかなかったりして軍事作戦という乱暴な手法に出るのも、人間の心理としてやむなし、という気がしてしまう。だってものすごく頭を使うもの。投げ出したくなるよね。
だからといって軍事行動というのはすごく野蛮なやり方であって、人間なら頭を使って言葉で解決策を探そうぜ、というのが外交なんだけども。

この映画での発見と言えば、ヨーロッパ(この映画ではフランス)におけるナチス・ドイツがどう受け止められていたのかということ、そして外交、言論のあり方。
ヨーロッパ諸国は、ナチスの存在はものすごく脅威であっただろうし、実際に蹂躙されてきたし、日本の持つファシズムへの感覚とは嫌悪のレベルがもう全然違うのだなーと。ヒトラーはもはや狂人であって人ではない、という感覚だもの。でもって、外交にしても、戦争が終結した後に他の国々からどう受け止められるかをすごく強調していた。これはやはり、ヨーロッパは色んな国が地続きで存在する集合体だから、いかに争いを避けて利益を享受するか、妥協点を探るか、協調するかって部分が国の存亡に関わるんだろうなーと。
この感覚は、ヨーロッパから離れていて、しかも島国の日本にはあんまり無い感覚だな、と思ったのでした。
(まあ、だからたまに百戦錬磨の政治家のセンセイや知識層の方々がとんでもない差別的発言をぽろっとするのだろうけど。)

そんなわけで、とても面白い映画です。密室での会話は非常に高度で、頭が沸騰しそうになるし、集中力が切れて睡魔がどっとくる瞬間もあったけれど、とても良い映画だと思います。大人の映画と言いますか。
ただ、集中力と睡魔の問題があるので、できれば元気な日に観るのがおすすめ。コルティッツとノルドリンクが疲弊していくのと同様に、こちらも疲弊してしまうのでね…

https://instagram.com/p/0NRDIHpXSe/

なお、観たのはBunkamuraル・シネマだったんだけど、パリ壊滅作戦の地図もあって面白かったです。地理がわかるとなおのこと楽しめるねえ。こういうの好きです。

さて、今週こそはイミテーションゲーム観れるかな!