「セッション」スポ根愛憎劇



先日「セッション」を観てきました。アカデミー効果もさることながら、おそらく口コミ効果がすごいんじゃないでしょうか。観たい観たいと思いつつもいつも満員御礼でいい席が取れず、やっとやっと行けました。長かったよ!

プロドラマーを目指し、音楽学校に入学した主人公が、鬼教官に出会い、ビシビシとしごかれるスポ根映画ですね。
音楽的見地からなんだかんだ言われている作品ではあるけれど、私がど素人ということもあってか面白いと思いました。熱量高めで、高すぎてもはや漫画の域だけど、一見の価値あり。そしてぜひ劇場で観るべし。
主人公のニーマンは、内向的で友達もおらず、父親と映画を観て余暇を過ごすようななかなか寂しい青年です。でもってプライドと志だけは高く、いつか超一流のプロドラマーになって、周りを見返してやるんだ!という野望をふつふつと内にたぎらせ、さらに近寄りがたくなってるタイプ。初デートで女の子が引き気味なのに大学の専攻をどうするのかグイグイ聞いたり、音楽について過剰に熱く語ったり、親戚の大学生がスポーツでよい成績を収めると、お前の学校のランクはそのスポーツでは大したことないとこきおろしたり(この前に、音楽で評価されることをバカにする発言があったからだけど)、内気で不器用…といえば聞こえはいいけどかなり面倒くさい奴です。音楽で名を馳せることができれば、孤独で貧乏で早死にしてもいい!とか公言して、もやもやした気持ちをドラムの練習にぶつけ…。もちろん音楽が好きでドラムが好きなんだけど、自分の卑屈さや内向性をも音楽のためには仕方ない!とこじつけて、音楽を一種の自分をアピールする手段として考えてる感じです。

一方、鬼教官であるフレッチャー教授。これがまたひどい。音程やテンポがズレると怒鳴るわ罵るわ物を投げるわ。差別的な言葉もガンガン言う。というより、むしろ、あえて屈辱的な言葉を選んでいるような感じ。よく、軍隊ものの訓練シーンでありますが、あれをもっと酷くした感じね。しかし、この教授が率いるバンドが、学内で最高峰のバンドであり、メンバーは必死にくらいついていきます。
ニーマンもしかり。テンポがずれているとビンタされても椅子を投げられても耐えて、ひたすら練習練習。練習のし過ぎで流血しても氷水で冷やし、ますますドラムに没頭していくのでした。

単純なストーリーなのだけど、見どころはやはり、ニーマンがどう転ぶかわからない点でしょうか。
鬼教官のスパルタレッスンにくらいついて大成していくのか、理不尽に怒って反撃に出るのか、挫折してしまうのか。鬼教官vs生徒→成長と和解…といくの?まじで?そんな風には思えないけど全然??ってとこがこの映画の魅せる点だと思います。
どう帰着するのかはぜひ映画を観て確かめて欲しいのですが、ラストは意外と解釈が分かれるところなのかな、と。
私の好きな映画評論家さんは、この映画をとても高く評価していて、ラストを非常にきれいに解釈したようです。が、そうでない方もいたようで、わたしもどちらかというと、すっきりサッパリのラストとは思いませんでした。

※※ここからはネタバレっぽくなります。注意!!※※

私はこの映画を観て「春琴抄」を思い出したんですよね。
あれは男女の至上の愛を描いたものだけど、もう、ふたりだけの狂気の愛でもある訳ですよ。この映画に、それに近いものを感じてしまった。
フレッチャー教授もニーマンも、自分を盲信するあまり、どんどん狂気じみてきて、お互いに反発したり認め合ったりしながら、最終的に、お互いの狂気が交差する瞬間が訪れる。ふたりが音楽を通して、もう常人には戻れない領域に足を踏み入れてしまう愛憎劇だと思いました。最後なんて、うわー!地獄の釜が開いた!って思ったもん。
この領域っていうのが、多分観る方の意見が分かれるところであって、ニーマン自身が自分のなりたい自分になれた!という風にみる人もいれば、教授と分かち合う瞬間が訪れたと感じる人もいるだろうし、はたまた、ふたりが音楽の喜びに目覚めた、ととらえる人もいるだろうし。
私の場合、地獄の釜が開いたと言った通り、もう、ふたりだけの世界に飛び込んでしまったという風にみえました。例えばジャズなんて、メンバーが呼吸を合わせてそれこそ「セッション」する音楽なんだと思うけれど、このふたりはメンバーの呼吸なんて関係ないんだろうな、と。音楽を、ジャズや音楽を愛するというよりも、自分の中で高みに達する瞬間を得てしまって、それが良いものであれ悪いものであれ、その恍惚感に捕えられたが最後、二度と抜け出す事はできないんじゃないかと。
まあ元々フレッチャー教授はどちらかというとそっち寄りの人間だったんでしょうけど(あの復讐はすさまじい)、ニーマンを道連れにして、フレッチャー自身もさらなる恍惚の域に、って感じでしょうか。思えば事故があったときにニーマンは元の世界に戻って家族と仲良くしたり、恋人をつくったりと人間らしく生きる事もできたんだろうけど、また再び足を踏み入れちゃったもんだから、もう戻る事はないんだろうなーと。お父ちゃんかわいそう…。
しかしそれは、ふたりからすれば、完結し満足のいく状態なわけで、ふたりの視点からすれば、救いを感じるし、爽やかな気持ちにすらなるのだけど、第三者目線からすると、修羅の道を選んだんだなあ…と空恐ろしくなるというか。

そんなこんなで、音楽の映画…というと、またちょっと違うんじゃないかなーと思ったこの映画。
漫画だし単純明快ストーリーだけど、意外と色んな見方ができて、面白いと思います。

ドラムと言えば、思い出すのはこの映画。こちらはまごうことなき爽やか青春映画です。
ニーマンのドラム、素人の私にはわかりませぬが、マーチングバンドのドラムみたいに聞こえたけど、気のせい??